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嵐山での新しい暮らしの始まり

さくらの事務所が嵐山に移ってからしばらくして、事務所のすぐそばの民家をさくらが購入することになりました。お茶の先生が住んでおられた家で茶室のような部屋もあり、とても雰囲気のある家です。今回は、そこに僕が引っ越すことになったところからの話になります。

僕は当初、さくらのすぐそばに暮らすことには、なんとなく抵抗がありました。ずっと事務所にいる感じになって、窮屈にならないかと思ったりしていました。けれど、車いすでの暮らしのことをよくよく考えると、さくらの近くの方が暮らしやすいと思い、その家に引っ越すことを決めました。
実際に暮らしてみると、事務所が近いということがこんなにも便利で楽なのかと思いました。そして、のんびりと過ごせるなと思ったりもして、あれこれと思いながらも僕の嵐山での新しい暮らしが始まりました。

アパートづくり
― さくらの思い ―

嵐山に引っ越してからしばらくすると、今度は事務所の裏にアパートを建てることになりました。障害者の自立を支援するものの一つとして、さくらにとって大きな意味のあるアパートで、僕もこのアパートで暮らすことになりました。

アパートを建てるにあたっては、さくらのスタッフさんと一緒になって、あれこれと考えて意見を出し合いました。お風呂やキッチンの見本を実際に見に行き、あれがいい、これがいいと言いながら選び、障害のある人にとって暮らしやすい部屋とはどういった部屋なのかなど、いろんなことを考え、そして想像しながら、一つの形を作っていきました。僕にとって、それはとても楽しくて貴重な体験になりました。

以前から、いつか自分自身の家を建ててみたいなぁと漠然と思ったりしていたのですが、今回のことで、その思いが強くなりました。実現できるかどうかはわからないですが、実際に暮らしてみて、あれこれと気づくこともあるので、この経験を生かして自分の家を建ててみたいなと思っています。

さくらと関わる前の自分にとって「一人暮らしをして自立する」ということは、夢のまた夢みたいなものでした。でも、さくらでいろんな人と出会い、支えてもらい、協力してもらいながら、「一人暮らしをして自立する」ということができるようになりました。
いつになるか、まだまだ気の遠くなるようなことですが、さくらの人と一緒になって「自分の家を建ててみたい」と思っています。

いい風
― いろんな体験ができた ー

嵐山に移って来る前は、利用者さんやスタッフといろんなところに遊びに行きました。それは嵐山に移ってからも同じでした。
その中でも海で船釣りをしたことが強く印象に残っています。 船に乗って釣りをするのは初めてだったので、酔い止めの薬を飲んでいきました。幸い僕は大丈夫だったのですが、酔ってしまったヘルパーさんもいて、とても辛そうでした。
船長さんは男気のある方で頼りがいがあり、車いすの僕も安心して釣りを楽しめました。釣りをするポイントまで船を走らせてくれたのですが、その風がとても気持ちよかったことを今も覚えています。普段の生活では体験できない、いい風でした。 ちなみに釣果の方はイサキがたくさん釣れて、みんなで分けても食べきれないぐらいでした。

また、淡路島に一泊で遊びに行ったことも思い出深いです。その時も釣りをし、バーベキューや温泉を満喫し、みんなでワイワイ遊ぶことができてとても楽しかったです。
そのように、大勢で遊んだりすることも楽しいのですが、ひとりでヘルパーさんとブラブラと散歩がてら出かけるのも好きで、いろんな形で外出を楽しんでいます。
コロナでしばらく遊びに出かけたりできていなかったのですが、これからまた、いろんなところへみんなと出かけて、いろんな体験をしてみたいです。

カンプ・ノウ

そのいろいろ行きたいところの一つがサッカー観戦です。
さくら物語Story.1にも書いていたのですが、僕は少年の頃にサッカーをしていました。テレビで試合を見ることも好きなのですが、特にスタジアムでみんなが応援している熱気ある雰囲気の中で観戦すると、一体感を感じて胸が高鳴ります。選手のプレーを間近で観ると、自分もプレーしているように感じ、サッカーをしていた少年の頃を思い出します。
これまでにも国立競技場、横浜、大阪、神戸、そして最近新しくできた京都のスタジアムなど、いろんなスタジアムに連れて行ってもらいました。どのスタジアムもいい雰囲気の中で観戦できて、サッカー観戦は僕の楽しみの一つになっています。
これからも行ったことのない日本中のスタジアムに行ってみたいと思っているのですが、最終的にサッカーの本場であるヨーロッパのスタジアムにも行ってみたいなぁと、これまた漠然と思っています。カンプ・ノウ(スペイン)、ウェンブリー(イングランド)、スタディオ・ジュゼッペ・メアッツァ(イタリア)、他にもいろいろ行ってみたいスタジアムがあります。

僕は、外国には一度も行ったことがありません。外国に対して少し怖いイメージがあります。僕の基本的な性格として、「石橋を叩いてやっぱり渡らない」というようなところがあり、思いっきり行動力がありません。けれど、それでも一度は行ってみたいと思えるところなので、まずその第一歩として、初めてパスポートを取りました。

Iam…… having fan!!

そのために、というわけではないのですが、英語の勉強を始めました。英会話の講師をされているフィリピンの方とご縁ができ、さくらで英語の勉強をすることになりました。
僕は中学生の頃に英語を勉強しても、ひとつもおもしろいと感じたことはなかったのですが、今はなぜかみんなと勉強すると楽しく感じます。本当に不思議なものです。

僕は全く英語が話せなく、先生に英語で質問されて英語で答える場面では、Iam……という感じで全く言葉が出てこない、そんな場面ばかりだったのですが、先生はいつも陽気で朗らかで、その人柄がそのまま英会話の雰囲気を作っていて、英語が苦手で楽しいと思わなかった僕でも楽しく英会話を学べ、またみんなもとても楽しそうでした。

これまでつまらないもの、おもしろくないもの、興味がないものはそういうものだと思って避けるか我慢するしかしてこなかったのですが、そんなところにも実は楽しみがあって、暮らしの中のことでも自分の心持ちや工夫で楽しくしていけるんじゃないかと思い始めています。

僕は今、英会話の勉強を通してとても大事なことを学んだような気がしています。

さくらの小さな畑
― 推しは万願寺にあり ー

さくらにはアパートを建てた時に作った、小さな畑があります。利用者さんのお父さんとヘルパーさんが協力して野菜を作っています。僕自身は直接土を触って作業しているわけではないのですが、普段、畑の横を通った時に野菜が成長しているのを見ると、何か勝手に自分も育てているような気分になっています。
うちで食べたネギのヘタを畑の端に植えたのですが、これが2年経った今ではネギ坊主をつけて立派に成長しています。今年は事業所のあちこちに植えたチューリップが綺麗に咲いて、それを見て楽しんでいたのですが、それと同じようにネギ坊主も事務所に行く時にチラッと見て楽しんでいます。

畑ではいろんな野菜が作られています。大根、人参、大葉、イチゴ、今年はジャガイモ、スイカなどなど。ちなみに僕の推しは、万願寺とうがらしです。採れたての新鮮な万願寺を焼いてご飯と一緒に食べると、何とも言えない美味しさです。
それにしても、大葉があんなふうにふさふさにできるとは知りませんでした。今年はスイカができる予定なので、ちょっと楽しみにしています。

入院かぁ…
― みんなに助けてもらいながら ―

さくらの畑で採れた美味しい野菜を食べて元気で健康に暮らしてはいるのですが、病気の方は少しずつ確実に進行している現実もあります。
2年ほど前には、長年の車いす生活の負荷により臀部の内側が化膿して、お尻がパンパンに腫れたことがありました。この時は熱も出たりして毎日のようにヘルパーさんに病院へ連れて行ってもらったのですが、結局、入院して手術を受けることになりました。入院してからもヘルパーさんが毎日病院まで来て支えてくれました。おかげで、不自由なく入院生活を送ることができ、とても助かりました。

その少し前には肺炎で、次の年には蜂窩織炎(ほうかしきえん)で入院し、その度にヘルパーさんに助けてもらいました。特に肺炎の時は、ちょうどコロナが流行り出した頃で、まだコロナのことがよく分からず、病院に行くとお医者さんと看護師さんが防護服を着ていたのですごく不安になったのですが、ヘルパーさんも同じ気持ちだったと思います。そんな時にもヘルパーさんが病院に連れて行ってくれて、本当に感謝しかありませんでした。
退院した時も、いつもみんなが大丈夫かと声をかけてくれました。そんなふうに気にかけてもらい、自分はいろんな人から支えてもらっていると感じました。

そんなこんなで痛い目に遭って、毎日を元気に過ごしていくためには、日々の体調管理が大事だと、ようやくその当たり前のことを実感するようになりました。訪問看護師さんにも毎週来てもらって栄養面のことなど教えてもらうようになり、少しずつですが生活を見直しています。
それでも、喉元過ぎればではないのですが、ついつい夜更かしをしてしまったり、水分補給を怠ったり、いい加減なことをしてしまって反省の繰り返しです。

支え合うという気持ちを大切に

最後に、暮らしと介護についてお話したいと思います。

最近は、いろんなことを楽しむような感じで毎日の暮らしを送っています。
アツアツの炊き立てご飯に幸せを噛みしめたり、夕食後に食べる1粒のマカダミアナッツチョコレートの甘さに開放感を感じたり、週に1度のお気に入りのテレビ番組のクイズを楽しんだり、ヘルパーさんとのどうでもいいような会話にほっこりしたり、少しずつですが、日常の何気ないことを楽しめるようになってきています。

毎日の暮らしは楽しいこと、嬉しいこと、辛いこと、悲しいこと、いろいろなことの連続で過ぎていきます。けれど、ほんのちょっとしたひとつひとつのことを楽しむことができれば、楽しいこと、嬉しいことに囲まれて、それがきっと僕にとっての豊かな暮らしに繋がっていくように感じています。

ただ、そのためには、介護についてよく考える必要があります。僕の暮らしは介護があって初めて成り立っていて、介護なしでは暮らしを考えていけません。僕にとって介護とは、ヘルパーさんとの関係が全てと言ってもいいぐらいに思っています。 これまで、いろいろなことがあり、その中で介護を受けてきて思うのは、やっぱり介護とは暮らしを支えてもらっていることなんだなということです。ヘルパーさん、事業所とどんなふうに関係を作れるか、お互いどのように理解し合えるか、その上で成り立っていると思います。
僕はさくらと、そして、そのヘルパーさんたちとどういうふうに関係を作っていけるか、楽しみでもあります。
お互いが共に支え合うという気持ちを大切に、これからもさくらのみんなと一緒に笑いながら楽しく歩んでいきたいと思っています。

最後まで読んで下さり、本当に、ありがとうございました。